田舎暮らし四方山話~その9~【情報館設立三五年。その体験をもとに田舎暮らしへのアドバイス】
第9回:土地選びのノウハウ ~景観より「住まう環境」を考えよう(後編)~
◆「北側の景観」も捨てがたい
「南に広がる景観」もいいが、「北側の景観」も見捨てたものではない。
JR中央本線で甲府から韮崎を過ぎると、穴山駅という無人の小さな田舎駅がある。その駅舎からの南アルプスの眺めは雄大そのもの。
そこから歩いて10分ほどの所に、リタイア後に東京から移り住んだ夫妻がいる。その夫妻が選んだ土地は、南側が小高い丘になっていて南アルプスの景観を望むことはできないが、北側には「日本百名山」の深田久弥にゆかりのある茅ヶ岳がすっきりとその姿を見せている。
▲理想の景観を望むには。
夫妻は自宅を建てるにあたって、食卓から茅ヶ岳を眺められるように北側に食堂を配した。出窓からの夕陽に映える山姿はすばらしい。日の当たる部分だけが赤く燃え、それが刻々と面積を減らし、最後には山頂のみとなる。やがて夕闇となり、出窓からの風景は韮崎の夜景へと変化してゆく。
もし、あなたが土地を選び、住宅を建てる場合には、北側の景観も配慮したほうがいい。南側より北側の景色のほうが、目にやさしく美しく見えるからだ。
写真を撮る場合を考えてみればよくわかるが、太陽光線との関係から、南側は「逆光」であり、北側は「順光」である。京都の寺院の名庭園に、建物の北側に庭園を配し、回廊から眺められるようになっているものが多いのも、そうした理由からである。
◆永住は標高1200メートルまでを目安に
1990年代初頭のバブル経済崩壊後、全国のリゾート別荘地には閑古鳥が鳴いている。
特に、標高の高いリゾート別荘地はゴースト高原になりかねない状況を呈している。夏は涼しいが、冬が厳しく、一度はそこに居を構えたものの、人里に下りてきたという人も多い。通年利用には向かないのである。今、人気エリアは都会資本が作った高原リゾート地より、ごく自然な農山村の里山である。
山間地で物件を選ぶ場合には、標高千二百メートルまでが田舎暮らしには限度と考えていい。
一例を八ヶ岳において紹介すると、麓の韮崎市の標高500メートルから清里高原別荘地の1500メートルまで、標高差で約1000メートルある。春の桜の開花期は約一か月の違いがある。その間15キロ、車で20分ほどで、一か月間桜の満開を楽しめるが、標高1500メートルの地で暮らすとなると、野菜の種まきは、春は一か月遅く、秋は一か月早く終わるということである。
気温は100メートル標高が上がるごとに0.6度下がるというが、実際には麓でマイナス3度でも、清里高原はマイナス20度ということもある。標高差のある山間地では、いちおうその土地の標高も調べておくことが必要である。標高は、地図にしるされている等高線か標高計測器で調べるが、地域によっては必ずしも標高だけで気候条件を判断できるとは限らない。それには周辺の植物や作物を調べるのが確実である。
田舎で野菜を作り自給自足的な暮らしをしたいというならば、「稲作のできる標高まで」を一つの判断基準としていい。稲はもともと南方系の作物で、稲が栽培できれば他の作物もかなりいけるはずである。周辺に水田があれば、まずは安心といっていいだろう。そしてどんな果物や作物が作られているか、昔からの農家がそこにあるかどうかも調べてみる。
高原に行くほど、眺望がよくなり気分はさわやかになる。けれど景観だけで土地選びをすると失敗する。田舎暮らしはハイキングとは違うのだから・・・。
◆寒冷地では南西斜面がいい
田舎の土地には、それぞれに「メリットとデメリット」があり、すべての土地があなたにとって「帯に短し、たすきに長し」といっても過言でない。では、どのようにして選ぶのか?
長野県美麻村に移り住んだ後藤さんはこう語る。「理想の土地を追い求めたときには、なかなか決まりませんでした。長い時間をかけて、ふと気づいたのです。この土地の人たちは、ここで生まれ育ち、暮らしている。不便な部分はそれを補う知恵を持ち、いい部分はそれを楽しみながら享受している。これは、とてもすてきなことだと思いました」。そして後藤さんは、「いいとこ取り」で探すのではなく、「自分の生きる場所が、この世界のどこかにありますように」と視点を変えて探すと自然に見えてくるものがあると。
「すてきな環境は最初からあったものではなく、そこに暮らす人たちが作り上げたもの。私もその一員となって、長所も短所も含めてこの地を好きになりたい」との後藤さんの言葉は示唆に富んでいる。(本部 佐藤彰啓)
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