▲雄大な夕張山地の中央に位置する芦別岳を背後に、大自然の中を1両だけの根室本線の普通列車が走り抜ける。
今からちょうど25年前の1999年に公開された、故高倉健氏が主演を務めた映画「鉄道員(ぽっぽや)」をご存知だろうか。
妻子に先立たれながらも寡黙に最期まで職務を全うする駅長が主人公の感動作だが、その舞台となったのは北海道のど真ん中に位置する空知郡南富良野町。
そんな人口2300にも満たないこの小さな街から、先月3月31日限りでとある鉄道路線が姿を消した。それが本作のロケとして度々登場したJR根室本線だ。
▲台風災害後は途中の東鹿越止まりとなり、7年半に渡りこの区間で折り返し運転を行ってきた。
道央の滝川駅と道東の根室駅を結ぶこの路線は、全長443,8㎞と道内最長かつ日本最東端へ至る路線だが、2016年8月の台風災害により途中の東鹿越駅〜新得駅(上落合信号場)が不通となっており、元々存廃議論もあったことから復旧せず、運行中の富良野駅〜東鹿越駅も含めた57,6㎞が廃止されてしまった。
この区間は道東開拓の先駆者として1907年(明治40年)に開通し、道央と道東を最速で結ぶ輸送の大動脈として機能してきた。
ところが1981年(昭和56年)に千歳空港(現在の南千歳)〜新得間の短絡ルートとなる石勝線が開通すると状況は一変。特急列車は一夜にして全て石勝線経由となり、根室本線(滝川〜新得)は一気にローカル線へと格下げされ、南富良野町を通る乗客も同時に減少。
かつては林業や石灰石鉱業で栄えた南富良野町も、他の自治体に漏れず人口流出が加速していたところに台風災害が直撃。鉄道での復旧を断念することとなり、4月1日から路線バスが新しい住民の足となった。
JR北海道では2016年11月に「当社単独では維持することが困難な線区について」を発表した。北海道では河川・道路・空港・港湾といった公共インフラは、国土交通省管轄の北海道開発局が管理運営を行っているが、鉄道だけはJR単独での負担となっており、沿線自治体や道としても支援等は行わず自力経営を求められてきた。
ところが民営化から約30年が経過し、景気低迷・人口減少・航空機や高規格道路といったライバルが登場し、これまで耐えていた限界値が突破したのが7年前。つまりJRが民間企業として健全経営をするには、赤字線区については廃止もしくは上下分離し、数少ない黒字線区について必要に応じた設備投資を行う必要があるという悲痛な宣言である。
その赤字線区に当区間が含まれており、これまで2019年から毎年(2022年を除く)道内各地の路線で廃止され、本線区の廃止を以て道内でも深刻な赤字路線は一通り整理されたことになる。
▲空知川をせき止めて作られた人造湖「かなやま湖」は、キャンプ場やラベンダー畑が広がる町の憩いの場。
鉄道会社は公共交通機関でもあるが利益を求める営利企業でもあり、民間企業の一括りには出来ない特殊な立ち位置である。札幌一極集中が進む中、道内の小さな自治体はどのように生き残りを懸けて行くべきか、まずは地元の足から見つめ直すことが地域存続の架け橋だろう。
昨今の不動産仲介業者も倒産が相次ぐ中、この時代で生き残るためにはやはり単独ではなく、チームワークがより一層必要不可欠だ。(本部 高橋瑞希)