寒くなってきたので、近場の温泉にでも入ろうと、岩手の花巻温泉郷に行ってみたのですが、晩秋にもかかわらずバラ園があったので寄ってみました。すでにバラの花は最盛期を終えて寂しい状態でしたが、周りの樹木の紅葉は真っ盛りで、園内の草花とのコントラストが美しく、夏にはない清閑な雰囲気でした。
入口から上り斜面に向かって進むと、宮沢賢治の詩碑があります。そこに賢治の手紙の写しが展示されていたので読んでみると、なんと此のバラ園は昭和二年に「羅須地人協会(らすちじんきょうかい)※1」時代の賢治が設計した「南斜花壇設計」に基づいたものなのだと書かれていました。
かの詩人がこの丘から温泉郷の山々と旅館郡を此処から見下ろしたのかと思うと感慨深いものがあります。
そんな園の中に客もまばらな売店があったので、コーヒーを注文して景色を眺めていました。ふと思い出されたのは自分が幼い頃に、亡き祖父母に毎年花巻温泉へ湯治に連れてこられた時のこと。当時の軽便鉄道(※一般的な鉄道よりも規格が低く、線路幅が狭いなど、安価に建設された鉄道をいう)みたいな小さな温泉列車に乗って来た記憶です。
昭和三十年代のレトロな景色が甦り、懐かしさと優しかった祖父母の面影が去来する何とも言えない哀愁を感じている自分は、帽子とコート姿で、まるで焼酎の「二階堂」のCMそのものの再現です。
帰りは古い小さな旅館の小さな温泉で温まりました。癒された一日でした。
(みちのく岩手事務所 佐々木 泰文)
※1 1926年(大正15年)に宮沢賢治が現在の岩手県花巻市に設立した私塾。協会と冠するものの、実質賢治一人の手によるもので、自ら科学や農業技術、農民芸術を周辺農民に講義したとされる。
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花巻温泉「バラ園」 岩手県花巻市湯本第1地割125