広告印刷物の企画制作をビジネスにする社長からの話です。
取引き先の旅行メディアから、印刷物の制作以前の、新しい旅行商品のアイデアの提起を要請されたというのです。旅行ツアーのパンフは、写真、旅程、費用を織り込んだ原案をもとに、デザインを起こし、プレゼンを経て印刷という手順ですが、訪日客の激増など、旅行の形態がどんどん変わってきて、ありきたりのツアー商品だけでは応えられなくなり、新しい旅のカタチをデザイナーレベルまで広げ落して、求めてきたわけです。
提案期限に苦しんだ社長は、蔵王の宿に旅人を泊めて20年の私に、生の声をヒントに聞かせてくれと望んできました。定番の観光地以外にも目を向けはじめた訪日客に接遇し、外国人と日本人が深い交流を楽しめるツアープランを設計したらどうか、と私は答えました。観光の場面で、つたない会話で外国人と触れ合い、ちょっとした国際感覚を味わう快感を知る旅。そんな旅のメニューを創るんですよ、と。
今年から小学生にも英語学習が必須となりました。偏見が少なく、好奇心旺盛な若い世代にも呼び掛ける新しい旅行商品「訪日客そのものを観光資源」と捉えていく発想です。生の英語、中国語、韓国語など外国語に、ぶっつけ本番で触れ合い、外国の友人さえ生まれる、教育旅行の新しいカタチになるのではないでしょうか。
茶道、生け花、陶芸、盆栽、染色、和紙作り、織物、和菓子、日本料理などそれぞれの趣味・趣向で「場」をつくれる日本人旅行客の参加をツアーの核とします。問題は、このスタディ・ツアーの出会いの接点や、時間、場をどう作り出すかですが、それを商品として詰めていくのがこれからの旅行会社の才覚というものでしょう。知人に戦後駐留軍基地の脇で育ったという奥様がいますが、流暢な英語を話します。外国語は環境に染まっていれば教育はなくても身についてしまうものと実感していました。
昨年は3000万人超えと、年毎に多角化する世界各国からの旅客は、すでにモノ消費からコト消費へ、定番のコース巡りから、さりげない地方の風景のなかにも広がっています。日本の文化、日常生活にも魅力を探すリピーターに応えるため、そして日本人の国内旅行の多様・活性化のため、時代に合わせた視点を持たねばと、私ども宿泊施設側も思い悩んでいるのです。
異文化と積極的に出会い、交流をする、これが国内旅行の楽しみを増し、深めていき、訪日客をさらに増やしていくことになるのではないでしょうか。(白石蔵王 渡辺 和夫)
▲有名な観光地巡りから地方に残る遺産巡りへ。廃線となった山形県高畠鉄道の石造り駅舎は人気のワイン醸造工場に。