▲雲上の楽園も今やゴーストタウン化し、RC造のため今後百年以上はその姿を維持しているだろう。
岩手県八幡平市は県内北西部の奥羽山脈東麓に位置し、2005年に西根町・安代町・松尾村が対等合併して発足した市町村。
その中でも松尾村にあった松尾鉱山は古くから硫黄が採掘されることが有名で、江戸時代中期には既にその存在が知られていた。
戦前になるとその大型資本による本格的な開発が進み、一時期は東洋一の硫黄鉱山として隆盛を極めました。
当時は家賃無料・水道光熱費無料に加え、サラリーマンの当時の平均賃金の3〜4倍保証と、現代から見ても破格の待遇を提示していたことから、ヤマに入る男たちは後を絶ちませんでした。
まだ一般的な公団住宅が普及する前から、インフラ完備の鉄筋コンクリートのアパートや教育施設、映画館、病院等が標高約900mの山奥に聳えるその光景は、まさに「雲上の楽園」と呼ばれもてはやされました。
しかし坑内での落盤・爆発・火災事故も多かったことから、いわゆるハイリスク・ハイリターンの仕事だったため、人の入れ替わりも一際激しかったといいます。
そして高度経済成長期に入ると、産出される硫黄の需要減や生産コストの増大から一気に経営が傾き始め、エネルギー革命により日本各地の炭鉱が閉山し始めた時期と同じ1969年に経営悪化から閉山。
その結果莫大な解体コストがかかるRC構造の緑が丘アパート群は放置され、閉山から半世紀以上経過した今でもひっそりそこに人々の繁栄と衰退の歴史を証明しています。(本部 髙橋瑞希)