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群馬◆安中市/物件ウォッチ誌上オンエアー (文化放送「大人ファンクラブ」毎週土曜日06: 25 より。中村の放送回は毎月第4週目)

この記事の投稿者: 代表取締役・中村健二

2021年1月13日

群馬の奥座敷 伸びやかな丘陵地帯の二棟の住宅

◆群馬県安中市(鷺宮)1400万円

今から三十数年前、信越本線を使って長野県へ仕事に向かっていたころのこと。高崎駅を過ぎ車窓に妙義山が見え始めると横川駅だ。到着するとしばし電車が止まる。これから碓氷峠の急こう配を登るために、「アプト式」と呼ばれる歯車型の車両を連結する作業を行う。

信越本線の難所中の難所で文字どおり一歩ずつ歯車をかみ合わせながら長野県側へと向かっていく。その時速は10㎞に満たないといわれた。 旅行者の多くはこの停車時間を利用してあるひとつの行動をとるのが常だった。

ホームに出た売り子や駅の売店を目指し、名物の駅弁をすばやく買っていく。これが「峠の釜めし」である。あるとき私のとなりに乗り合わせたワイドショーの司会者がいた。テレビで見るそのままの短髪とだみ声で「わたしはいつも買っていますョ」と誰彼となく話し始めた。軽井沢に向かうそのひとときを釜めしとともにいとおしそうに味わっているような印象であった。旅の速度は遅い方が良いのかもしれない。安中市とは、わたしにとってはそんな町であった。 

この物件は、高崎から西へ車で三十分ほどの距離にある。私は逆向きのコースで山梨県の国道141号線(清里ライン)から小海町の中部横断道を経由して上信越道下仁田インターで下車した。ひところと比べ、高速道路の車の数は格段に増えていた。このあたりの地域の特徴は散村(さんそん)と呼ばれ、耕地の中に点在する民家がつかず離れずに建っていることだといえる。かつて建築家の原広司氏が『集落の教え』のなかで展開した「離れて建つ」という論を思い起こさせもする。

その耕地は伸びやかな台地状の一面すべてを覆いつくしている。畑に植えられているのはコンニャクイモだ。物件はそうしたコンニャク畑の一隅にあった。のどかな丘陵地帯と日当たりの良い立地、集落からの距離感など、都市と農村を結びながら密を避けたこれからの暮らしを希望される方にふさわしいのではないだろうか。

いっぽう、この場所は都市計画の区域内(非線引区域)であるため、無秩序な開発行為はしづらく今後もこうした景観が確保・維持できるだろう。それは心強い話である。建物は二棟あるが、まず目につくのはその基礎と擁壁の堅牢さだ。がっちりと躯体を保持している。また、公営水道も苦労して引き込んだという。東京都内在住のオーナーはここで、自らの作品を展示するギャラリーと知人たちの作品を紹介するサロンを目指していたと聞く。そのためこの両方の建物の特徴は壁が多いということだ。

プロでなくとも自らの手仕事で作り出したパッチワークやコットン刺しゅうなどを壁掛けできる場所はここには豊富にある。そうした利用の仕方がこの物件では活きるのではないか。

そして二棟あるうちの手前一棟は賃貸に回すという手も考えられる。ここから1.4㎞ほどの所には親子が休日に校庭でキャッチボールをしている小学校もあるし、都市の喧騒を離れて家庭菜園を楽しんだり、登山や渓流釣りなどレジャーの拠点としても利用したいところ。

その後、隣接市の富岡市が誇る世界遺産「旧富岡製糸場」を見学した。わたしは子供のころから工場見学が好きで、お土産にパイが出るわけでもないがここでもじっくりと見て回ることができた。前日にこけら落としとなった建物では演劇が始まっており、密を避けるために人数制限をしていた。

日も暮れなずみ最後に磯部駅近くの土産物屋によって素朴な磯部焼を買い、「塩泉」として名高い磯部温泉(日帰り)に入って帰路についた。ちょっとした小旅行気分を味わうことができたのだった。(八ヶ岳事務所 中村健二)

A棟内部

B棟内部