▲三次市内の至る所に鮫を見かけることが出来るのも、備北地方ならではの光景。
高度経済成長期の1950年代では、三種の神器と呼ばれる家電「電気冷蔵庫・電気洗濯機・白黒テレビ」が庶民の憧れの的とされてきました。
特に冷蔵庫は食品の長期保存を可能としたことで、肉や魚などの生鮮食品の流通を促進したと言っても過言ではありません。
無論冷蔵庫や冷蔵車のない昔、海から離れた山間部では魚は輸送する過程で傷みが生じるため、塩漬けしたとしても輸送出来る距離には限界がありました。
そんな中で、中国地方の山間部に位置する広島県三次市・庄原市といった備北地方では、昔からある魚を食べる文化が発展しました。
それが鮫の生食です。
▲スーパーの鮮魚コーナーに当たり前のように並んでいる「わに」。
鮫は消化器官が未発達なことから、アンモニアを体内に取り込むことで腐敗しにくい特性があり、冬期は2週間程度も日持ちすることから、備北地方ではハレの日のご馳走として重宝されてきたという歴史があります。
一方で鮫肉を使った料理は「ワニ料理」と呼ばれていますが、これは鮫の古語を「和邇」と呼ばれていたことが由来で、江戸時代後期に石見地方の漁師が塩の道ならぬワニの道を通って売り歩いたことが起源だとか。
▲ワニ料理はお刺身に限らず、創意工夫は無限大。
そんな「ワニ」にも20種類以上の鮫があり、その中でも赤みの濃い「ネズミザメ」が最も高価とされ、現在でも備北地方のスーパーで目にすることがあります。
鮮度が良いとビントロに似た味だそうで、冷蔵技術が向上し当たり前に他の鮮魚類が店頭に並ぶ現代でも、備北地方の人々にはご馳走として親しまれている食文化が今尚根付いています。(本部 髙橋 瑞希)