情報誌に掲載する「住み継ぎ物件」を取材するため、岩手県奥州市・江刺梁川(えさしやながわ)へと向かうこととなった。
仙台を出た時は快晴だったにもかかわらず、一関あたりから雲行きが怪しくなり、東北道水沢IC を出るときには土砂降りの荒天に変わっていた。東北も梅雨入り間近の予感がした。
途中、朝の連ドラ『おかえりモネ』のポスターを鶴巣(つるす)PA で見かけ写真に収めた。ドラマでは移流霧や彩雲などが出てきて、おおっと、気を引かれた方も多いのではと思う。
田舎では天気や気象状況にセンシティブであることを強く求められるのだ。
国道4号線と水量のやや増した北上川を越えて、東北新幹線水沢江刺駅に立ち寄った。観光案内所で聞いてみたいことがあったのだ。
「大谷翔平選手に関する資料はないのでしょうか?」
とわたし。
「あいにく掲示板に貼ってある切り抜きぐらいしかないんですよ」
と案内所のスタッフ。
どうやら肖像権絡みで写真などは置けないのだとか。市役所に行けば等身大の腕の模型があって、感染防止をして握手もできるそうだ。手のサイズはそれほど大きくもなく、よくこれでスプリットが投げられるものだと感心したという。
▲「奥州市出身 がんばれ 大谷翔平選手」
遠方から来たというと、写真のようなステッカーをいただくことができた。
▲観光案内所スタッフのおひとり。
「ところで江刺梁川まではどのぐらいかかりますか」
と、わたしは尋ねた。
「ここから30分ぐらいで行けます」
とそのスタッフ。
「そこへ何しに?」
「ええ、都会から移住した人を訪ねに行きます」
「梁川なら、そこ出身のミュージシャンをご存知?」
「もしかして「ロンバケ」の大瀧詠一(おおたきえいいち)のことですか」
「ここでは大瀧さんの全作品を個人のコレクターから預かって展示してあります。どうぞご覧になってください」
というわけで、観光案内所のガラスケースに入ったLP レコードやCD とともに詳細な年譜を拝見することができた。
そのせいで取材先には10分遅れの到着と相なった。
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▲庭の様子。
物件は日当たりの良い丘陵地帯にあった。丹精込めて手入れされた庭と草花。雨は上がり雲間から日差しが差し込み少しばかりムッとする草いきれに包まれる。
ダイニングでそれぞれ自己紹介をしたあと、リフォームされた土蔵に案内していただいた。そこで地下20メートルから汲み上げた地下水でお茶をいただく。
オーナーは神奈川県の湘南の地から17年前に移住した。会社勤務時代は海外赴任の経験もあるという。
60歳で定年後すぐに考えたのが、夫婦で元気なうちに農業を始めたいという思い。おふたりはともに東北出身。あるとき本誌で見つけたのが広い農地と民家と土蔵付きのこの物件だ。
「リタイア後は田舎暮らし」を絵に描いたような梁川での暮らしが始まった。田んぼをやりたいというのがふたりの共通した考えだった。手間かもしれないが機械に頼り切らなくてもなんとかやって来られた。なにせ時間はたっぷりある。休日には都会の子供や孫たちも駆けつけて来る。わからないことは近所に聞く。
▲足踏みの脱穀機も。
そして、「近所付き合いも大事ですが」と奥様は言う。「近隣に気の置けない都会からの移住者を見つけること」、それが長く続けられる秘訣ではないかと。地元と付き合う努力は必要だが、似たような趣味趣向で気の合う人を探し出すこと。得意料理やお菓子談義に花を咲かせるのも必要だし、土蔵の中でオペラのCD を聞けるご近所もありがたいものだ。
「それともうひとつ。腕の良い大工を見つけること」。家の補修はやはり地元が良いと言う。こちらに来て震災も経験した。そしていまはその次の人生のことを考えはじめている。
きょうは良い話が聞ける日だとひとりごちながら、3キロほど離れた梁川小学校を見に行く。どこか懐かしいにおいがする小学校だ。
集落の一等地、田園の先の見晴らしの良い高台にその校舎はあった。水利があり見通しのきく高台は縄文時代の遺跡が多い。もしかしたらここもそのひとつかもしれないな、と思いながらわたしは梁川を後にした。
*次月号では移住地中に積極的な奥州市の取り組みや空き家バンクについて書く予定です。(宮城・岩手・秋田担当 中村健二)
▲梁川小学校。
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