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山梨◆峡東/わたしが山梨県に移住したわけは【行くぞ!甲斐路・所長ふるさと随想録】

この記事の投稿者: 代表取締役・中村健二

2021年7月28日

▲保健農園ホテル「フフ」ではかつて民家セミナーも行われた。

山梨県内でもっとも早い時期から「首都圏からの移住促進」に力を入れていたのは、「甲府市」や「北杜市」ではなく、中央道勝沼インターが最寄りの高速出入口になる「山梨市」なのである。

いまから20数年ほど前、平日の夜都内の場所を借りて移住希望者に対してセミナーを開催していた。ずいぶん積極的な自治体もあるものだと感心していたのをよく覚えている。

わたしも時々お邪魔して「空き家の話」をさせていただいた。受け入れ側と希望者だけでは「移住促進」にはつながらない。そこには両者を取り持つ「橋渡し役」がいてこそだということを、当時学んだのだった。

「東京の隣接県でありながら、そこには深淵な溝のようなものがあります」と同じ山梨市出身の中沢新一明治大学特任教授もどこかでおっしゃっていたが、山梨県民になって25年近く経つわたしがいまだに感じるものとして、その「心の溝」は押さえておくべく事柄であるのかも知れない。

▲新しい道路もでき、ロードサイド店が次々に開店する市民病院周辺。

そんなわたしが山梨へ移住するきっかけはなんと生まれも育ちもこの「峡東地域」の人たちなのだ。そしてここが首都圏にもっとも近い「民家の宝庫」であったことにも起因しているのである。

中央本線塩山駅北口に堂々と建つ民家がある。この地域の住まいの特徴をよく表した突き上げ屋根が独特の風情を見せる甲州民家、通称「甘草屋敷(かんぞうやしき)」だ。いまでこそ街の中心は市民病院周辺に移ってしまったが、この界隈には映画館や花街、塩山温泉、鍛冶屋、藤村式擬洋風の建築などが残り、知る人ぞ知る「街歩きの達人」的な要素満載の場所でもある。

「甘草屋敷」の再生や酒蔵をギャラリーとして活用するなど古い建物の修復に取り組んでこられたおふたりの人物がいた。ここ塩山上於曽にお住まいで学年も一級上の方々。この人物たちとひょんなことから知り合ったのがちょうど、長野で冬季オリンピックが開催される前年のこと。 
特に「恵林寺」北側の松里(まつさと)という地区のご出身である方は、私の姓「中村家」が多い集落であったため、わたしを誰かに紹介するときも「松里に親戚がある中村さん」と言ってくれたりした。

▲山梨市にある空き家の民家(旧牧丘町内・物件NO.16778S 本誌5月号物件)。

あるとき、「三富(みとみ)にすごい民家があるから見にいこうという話が出た。このおふたりがすごいというからには、ほんとうだろう。作家の樋口明雄さん風に岩国弁でいうなら「ぶちすごいっちゃ」ということになるだろうか。

一にも二にもなく日を置かずその民家を三人で見に行くこととなった。三富とは東山梨郡(現在は山梨市・旧三富村)にある山あいの里だ。新緑や紅葉の時期にみごとな景色が見られる西沢渓谷やイノブタ料理でも知られる山梨の最奥の村だった。

ある晴れた昼過ぎに胸をはずませてたどり着いた三富の現地。それは草ぼうぼうの畑の真ん中にあった。それはかつて家であったもの。それは誰にも使われなくなってあと何年かすれば確実に廃墟となってしまうもの。わたしの目にはそうとしか映らなかった。しかしながら・・・。

このお二人はヘルメットを被るやいなや四方を隈なく見てまわり、家の中にすっ飛んでいったのだ。そしてわたしを呼ぶ声が。

「この栗は使えるね」などと話し込んでいる。

「中村さんも見てみぃ」その指差す方にあったのは、なにかで削られたままに何本も組み込まれていた横木たち。それはまさしく江戸期後期の手斧で削られたみごとな梁の架構であったのだがその当時は知る由もない。

おまけに家の中がやけに明るいと思ったら、かつて天井だったところから青い夏空が透けているではないか。こんな廃屋をすごいすごいと連発するこの人たちはいったい何者だなのだ。わたしの深いところでこの人たちの思いが共鳴したような気がした。

▲向嶽寺(こうがくじ)総本山。山号は「塩山」。四方(塩)の山を見渡すということから名付けられたという。

それからまもなく八ヶ岳事務所の開設がありその所長としてわたしは家族ともども移住を決めたのだった。それと時期を同じくするように能楽の故観世榮夫(かんぜひでお)さんを会長に迎えて「日本民家再生リサイクル協会(現・認定NPO法人日本民家再生協会)」の立ち上げがあり、全国の古建築や民家が見直されようとしていた。また、空き家は全国的に急速に拡大し人口が少なく別荘の多い山梨県が空き家率全国一といわれてしまうようになり、空き家特別措置法が施行されその活用が叫ばれるようになった。

その後この三富の家は解体され、首都圏の方の二地域居住の住まいへと変化を遂げていくこととなった。(八ヶ岳事務所 中村健二)

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